2014年2月19日水曜日

奈良の旅人エッセイ-19-「私のきっかけ、奈良の旅」

「私のきっかけ、奈良の旅」
            
 始まりは一冊の本だった。奈良へ旅することになったきっかけは『はじめ まして奈良』、本屋でこの本に出逢ったからだ。旅行の棚ではなくインテリア・雑貨の棚に何気なく置かれていたこの本、実は奈良でも人気のカフェ『カナカ ナ』を営むオーナーの井岡さんと、ライターである小我野さんのお二人がつくった、奈良への思い入れたっぷりの本だった。
 そんなことはつゆ知らず、私は紹介されているおみやげやカフェにすっかり魅せられた。『パルロワ』のランチにうっとりし、『奈良ホテル』のクッキーに憧れ、百毫寺の五色椿の美しさにため息が出た。この本をめくりながら「ここに行く」と決めていた。
  それからはあっという間の旅支度で、2年前の4月下旬、仕事帰りの金曜日の夜、主人と共に空路で奈良へ旅立った。夜分遅くに到着した近鉄奈良駅周辺は静かでしっとりとしていた。ホテルはネットで見つけた『小さなホテル奈良倶楽部』。東大寺まで歩いて行けるのが魅力で決めたけど、ここで大正解だった。こじんまりと丁寧に整えられたお部屋、美味しい朝食、何よりも“奈良のコンシェルジェ”と呼びたいオーナー谷さんの心配り、豊富な知識に旅先で一気に心が緩んだ。
 翌日は朝から雨。法隆寺や憧れのカフェ『パルロワ』へ行き、唐招提寺をめぐるころにはドシャ降りに変わった。ずぶ濡れでお参りしたが、雨と霧に包まれた唐招提寺の美しいこと、この上なし。心から安らぎに満たされ、感謝の気持ちでいっぱいになり、有難いお参りができた。
 実はこの旅より少し前、主人の母が眠るように急逝した。突然の母の死に主人も相当ショックを受けていたのだけど、この雨で鑑真和尚も一緒に涙を流し、心を洗い清めてくださったように思えたのだった。
 翌日曜日の朝は快晴。朝食前に東大寺二月堂へ散歩がてら参拝する。この散歩道、そして二月堂の気持ちのよいこと、夫婦そろって言葉にならない幸せに満たされる。散歩しながら、もうここに住みたいというくらいに奈良が好きになっていた。
 この旅行後も何度か奈良へ足を運ぶことになるが、いったい奈良のどこが好きなんだろう。ホテルへ向かうバス「青山住宅行き」を待つとき。地元のおじさんに道を尋ねられたとき。地元の人の気分になれる瞬間は最高の喜び!である。地図を食べられても心許せる鹿たち。大通りから一歩入った何気ない路地に漂う人の温もり。いや、もうたくさん、見つけてしまった。煙たがられても語りたい奈良のよさ。
 声高に言わないけど自分の住む町を愛し、旅人を心広く受け入れる奈良の人が大好きだ。どんな人にも奈良に通じる扉がある。いつでも開く扉。私は本がきっかけで扉が開いたけど、みんなは何がきっかけだろう?そんな話で盛り上がってみたい。すべての人につながっている奈良に心から感謝!

宮崎県在住 H.M.様 40代 女性