2014年2月5日水曜日

奈良の旅人エッセイ-5-「また 奈良?」

「また 奈良?」
               
「また奈良行くの?」と、いつも子供たちに言われます。
春・夏・秋・冬どの季節にもうろうろしている私。いつの頃からそうなったのかしら・・・。
 始まりは歴女でした。教科書に載っている仏像を見たくて訪れ、「ふんふん、これが例のやつね・・・。」なんて確認作業をしていました。中学生の頃の遠足で訪れた飛鳥では、「こんな田舎になんで来る?」と思ったこともありました。ただ見るだけの奈良。
  少し大人になった歴女は仏像や寺院を美しいと感じるようになっていました。入江泰吉さんの写真との出会いは私にとって、とても大きいものでした。「あの写真のあの場所へいきたい。」とまた確認行動。でも未消化のままでした。写真が美しすぎて、自分が見たものとなんだか違うのです。それでも心に残るかたちは 少しずつ増えていきました。
 母親になった歴女は子供の遊びと自分の欲求を同時に満たそうと、キャベツをバッグに入れていざ奈良へ。図々しくない鹿さんのいる静かな奈良公園を歩きまわりました。のんびり、のびのびできたのは奈良の懐のふかさでしょうか・・・。奈良ホテルの見える荒池の畔や、 ゆったりひろい東大寺講堂跡は今も落ち着くお気に入りの場所です。
 しばらくして歴女にはシングルになるという人生の転機がありました。落ち込んだら長谷寺に、悲しくなったら母と行った唐招提寺に、と奈良をあちこち歩きまわることでゆっくりと自分を取り戻していくことができました。静かなお堂の中には、心で呼びかけると微笑み返してくれる仏様がおられました。答えるではなく、表情で応えて下さるのです。いいなあここは。
 子供も独立し始めると時間にも気分にも余裕が生まれ、四季のうつろいを求めてゆったりと奈良を訪れる機会が増えていきました。ずっと前に田舎と感じた飛鳥は、 歴史の香りが漂う品のある場所に、奈良公園は多くの木々に守られ端の方にいくほど自然な天平時代を感じる場所になってきました。早朝の散策で感じる清々しさや、夕暮れの日差しの中での仏様や東大寺の回廊の暖かさ、それはひょっとすると好きだった入江泰吉さんの目線に近いものかもしれません。少しずつ変わっていく私の奈良。
あなたに寄り添っていきます。また 奈良へ 

大阪府在住 N.K.様 女性