2014年2月27日木曜日

奈良の旅人エッセイ-27-「大人の修学旅行」

「大人の修学旅行」

私が奈良を意識するようになったのは高校の国語の教科書で堀辰雄の「浄瑠璃寺の春」を読んでから。
実際には京都にある寺であるとのちに知りましたが、私の中にのどかな奈良の印象が強く残りました。このことが奈良の大学への進学につながったのです。
入学後一番に向かったのはもちろん浄瑠璃寺でした。堀辰雄の文章の中にあったそのままがそこにありました。鶏の鳴き声も聞こえるようなのどかな風景。修学旅行で行った大きな寺とは違う寺の佇まい。のどかな情景の中にありながらきりりとした九体仏。ゆったりとした贅沢な時間を過ごしました。それからの4年間文字通り奈良を歩き回りました。なによりも日本の四季を感じられる生活を日々楽しみました。
そして30年たった今、空想する旅行は「大人の修学旅行」。添乗員となって気心の知れた友人と一緒に奈良を旅したい。普通の観光コースではなく私の歩いた奈良を一緒に歩いてほしい…コースは浄瑠璃寺から般若寺へ、そしてゴールは二月堂。私のお気に入りのコースです。
時は春分の日。奈良駅についたら一路浄瑠璃寺へ。馬酔木の花が出迎えてくれるでしょうか。ここでは彼岸についてのレクチャーを。ここは現存する貴重な浄土式庭園。まさに春分の日は東の薬師如来鎮座する三重塔から日が昇り、西の阿弥陀堂に日が沈むのです。またこの日は美しい色彩の残ったうるわしい吉祥天女像と ご対面できる日でもあります。
清々しい気分になったところで次の目的地般若寺へ。ここでは文殊菩薩がお出迎え。よく見るとやはり美しい色彩が残っています。コスモスで埋め尽くされた頃にまた来たいね、などと話をしながら寺の向かいの植村牧場へ。こんなところに牧場があることに驚いてほしい。 新鮮な牛乳やソフトクリームで一息つきます。
ここから般若寺坂を歩いて下ります。まず右奥に見えてくるのが瀟洒な煉瓦造りの奈良少年刑務所。しばらく下ると左手にはにこっと笑った夕日地蔵。その先には鎌倉時代ハンセン病患者などを収容したという北山十八間戸。さらにくだり佐保川を渡り幹線道路へ。
懐かしい下宿前を通り転害門をくぐり東大寺敷地へ。大仏殿の裏を進み私の一番好きな石畳の道を歩き二月堂に到着です。一日の終わりこの舞台から見る夕景は何よりのご褒美です。空の色の変化をゆっくりゆっくり味わいつつ思い出めぐりの旅を終わります。
学生時代の修学旅行での奈良の思い出を聞くとあまり覚えていない、という人が多く寂しく思います。いろいろな奈良を知ってほしい、好きになってほしい…「大人の修学旅行」いつか実現したいものです。

静岡県在住 O.M.様 50代 女性